日本のマイクロブルワリー(小規模ビール醸造所)の数は700を超し、10年前の3.5倍のブルワリーが現在もなお各地に誕生しています。その中のひとつ <KOSHU BEER> 代表・千頭和修(ちずわおさむ)さんに、ワインの銘醸地である山梨県・甲州市勝沼に醸造所を設けた理由やビール造りにかける想いを伺いました。
ワインからビールの造り手へと転身。
酒造りの環境が整えられた勝沼へ
日本ワイン発祥の地と呼ばれる甲州市勝沼。酒類の原料や酒造りのノウハウが整えられた環境で「桃やぶどうなどの果実を使用した酸味が特徴のビールを造りたい」と、東京のワイナリーで働いていた千頭和修(ちずわおさむ)さんが2022年10月に始めたのが <KOSHU BEER> です。
「ワイナリーで働いていたこともあり山梨県の中でも甲州市勝沼の土地勘はありました。元々ビールは好んで飲んでいましたが、ベルギー発祥の “ランビック” というサワービールに心奪われ、これを日本で造りたいという夢がありました。」(千頭和さん)
自宅がある埼玉から毎日2時間半かけて電車で通いビール醸造を行う千頭和さん。勝沼になんのツテもなかった中で縫製工場だった中古の平家を借り入れ、壁やドアの修復から取り付け、水道・電気系統といった醸造に関わるほぼ全ての設備を一人で整え醸造施設を完成させました。
野生酵母を使用した “ランビック” スタイル
醸造所に併設されているショップのメニューボードには、「すっぱい」というワードが記載されたメニューボードが置かれています。千頭和さんが最終目標としているランビックビールは、培養した酵母を使用せず空気中に浮遊している野生酵母や微生物を利用して自然発酵させたベルギー発祥のビールのことで、強い酸味と燻製香のようなファンキーの香りが特徴です。
「ビールは雑菌汚染を受けやすく、新規で始めた私には空気中に浮遊している野生酵母をそのまま代用することは難しいため、今は培養した野生酵母を使用して醸造を行なっています。ランビックのようなサワービールは、通常よりも仕込みの工程が多いため機械でオートメンション化する方が効率が良いですが、少量の寸胴で仕込む私は手探り状態で始める必要がありました。」(千頭和さん)
理想とする醸造設備を整えるため、器具をDIYしトライアンドエラーを繰り返しながら現在の醸造スタイルに辿り着いたといいます。
酸味を際立たせるため、香りや苦味が出にくいホップを使用しています。さらに乳酸菌による乳酸菌発酵や発酵前に果物を入れ、甘味を極力残さない醸造をすることで複雑な酸味が特徴のサワーエールに仕上げています。また、目が行き届くマイクロブルワリーだからこそ、1つ1つに気を配り丁寧な作業を行うことで個性的でありながらも雑味のないビールが生まれます。
瓶内ニ次発酵を取り入れたサワーエール。
峡東地域の果物を使用し酸っぱい味を追求
左からマスカットベーリーAサワー、甲州サワー、すももサワー
<KOSHU BEER> のもう一つの特徴と言えるのが、瓶内二次発酵による心地の良い炭酸です。一般的にビールの炭酸は食品添加用の二酸化炭素を強制的に溶け込ませているところが多いですが、千頭和さんは「液中に残る酵母を利用したい」と栄養となる少量の糖分を加えることで炭酸を生み出しています。<KOSHU BEER>の主力である3種のビールは、峡東地域(笛吹市・山梨市・甲州市)で収穫された果物を発酵前に加えることで果物から出る酸味も加わり、さらに複雑さを増した果実感溢れるサワービールに仕上がっています。
約1ヶ月の工程を経て丁寧に造られたビールの9割は、月に1回ほどあるビールフェスなどの野外イベントで販売されています。「以前は週に1回の仕込みでしたが、徐々にお客様も増え今は2日に1回仕込むこともあります。今後は、キャンプ場などにも出店し美味しさを知っていただける機会を増やしていきたいです。」(千頭和さん)
ビールといえば「喉越し・キレ・爽快感」とイメージしがちですが、<KOSHU BEER> のビールには、私たちがふだん親しんでいる「苦い」ビールとは一味違う魅力が詰まっています。これから暑くなる季節、夏向けのサワービールを味わってみてください。
※coming soon
KOSHU BEER
山梨県甲州市勝沼町等々力1123-1
※詳細は下記URLを参照してください。
Instagram : koshubeer