6月下旬。桃の収穫が本格化する甲州市塩山。
大藤地区に受け継がれる「大藤仕立て」で、桃本来の魅力を引き出す<ファミリーファーム三森>。桃と真摯に向き合い、一玉一玉を丁寧に育てる三森さん一家。その桃づくりへの思いを伺いました。
甲州市の標高差を活かし、10品種ほどの桃を家族で育てる

初夏の日差しが照りつける畑で迎えてくれたのは、桃農家の三森正広(まさひろ)さん、美紀子(みきこ)さん、美優(みゆ)さん一家。収穫や選果に追われる繁忙期にもかかわらず、畑には笑い声が響き、どこか和やかな空気が流れていました。
甲州市塩山の標高が異なる複数の畑、約2町歩(一般的な学校グラウンド約2個分)で、およそ10品種の桃を栽培しています。

桃について話し始めると、止まることなく熱く語る代表・正広さん(52歳)。地元・甲州市で生まれ育ち、40代で会社員を辞め、2017年に桃農家として新規就農しました。
「若い頃から、いつかは手に職をつけて独立したいという思いがありました。そんな中、配送の仕事をしていたときに集荷先の桃農家を回る機会があったんです。いろんな農家のやり方を知るうちに、『自分だったらこうするな』というイメージが自然と浮かんできて。それが桃農家になろうと思った大きなきっかけでした」
山梨では家業として農業を受け継ぐ人も多いなか、自らの意志で飛び込んだ農業の世界。その原動力は、今も変わらない桃への純粋な興味と情熱でした。
大藤流仕立て。
樹が伸びたい方向に、そっと枝を添えてあげるだけ

まさに旬を迎えた「日川白鳳」の畑を見渡すと、若木とは思えないほど枝いっぱいに実がついています。それでいて、一つひとつの桃は形が美しく整い、樹全体が淡い桃色に染まっています。
三森さんが取り入れているのは、甲州市塩山・大藤地区で受け継がれてきた「大藤流仕立て」と呼ばれる仕立て方法です。一般的な桃の樹よりも多い4本の主枝を生かし、樹が本来持つ成長する力を引き出す「弱剪定」を行うのが特徴。若木のうちから収量を確保しながら、高品質な桃を育てることができます。

「私たちは、樹が伸びたい方向に、そっと枝を添えてあげるだけです」
過度に枝を切り詰めるのではなく、樹の力を引き出すように育てる。三森さんの考える桃づくりです。
春に行う「摘果」は、その年の桃の品質を左右する大切な作業。枝いっぱいについた梅干しほどの実の中から、どの実を残すかを一つずつ見極めていきます。一般的には実同士がぶつからない位置を優先しますが、三森さんはその段階から桃の形や「縫合線(ほうごうせん)*」まで確認し、左右のバランスが整った実だけを残します。
収穫は数か月先。完成した桃を思い描きながら、作業効率だけを優先するのではなく、丁寧な手仕事で一つひとつの桃と向き合っています。
* 縫合線(ほうごうせん)・・・桃の表面にある縦の筋。左右の大きさに偏りがある場合は、種が割れて養分が十分に行き渡っていない可能性があるため、摘果の重要な判断材料になる。
師匠・南さんとの出会い
三森さん一家が丹精込めてつくる桃は、その品質の高さから全国に多くのファンを持つようになりました。しかし、新規就農から最初の5年間は思うような成果が出ず、周囲から心ない言葉をかけられることもあり、悔しさに唇を噛む日々が続いたといいます。
そんな正広さんの転機となったのが、師匠・南さんとの出会いでした。
「 農家になって最初に借りた畑が、大藤地区にある畑で、その隣で桃を育てていたのが南さんでした。 最初の1、2年はほとんど口も聞いてもらえませんでしたが、少しずつ声をかけてもらえるようになって。何も分からないまま『これくらいでいいだろう』という感覚でやっていた自分にとって、南さんの仕事はすべてが勉強でした」

隣で作業する南さんの樹の見方や剪定を間近で学びながら、自分の仕事と何度も答え合わせを繰り返してきました。
「技術はもちろんですが、人としての姿勢も教えてもらいました。自然災害で桃が被害にあっても、『南さんがいるから大丈夫』と思える安心感があります。今でも何かあれば真っ先に相談する、心の師匠です」
気候変動によって桃づくりが年々難しくなるなかでも、安定した品質を届けられる背景には、師匠から受け継いだ技術と、人とのつながりが、今の<ファミリーファーム三森>の桃を支えています。
父が桃をもぎ、娘が受け取り、母が仕分ける。
こだわり抜いた桃で笑顔を届ける

三森さん一家が営む<ファミリーファーム三森>では、日川白鳳、夢桃香の早生品種を皮切りに、9月のさくら白桃まで収穫シーズンが続きます。
樹上でじっくり熟し、一番おいしいタイミングを見極めて収穫された桃は、ふっくらと美しい丸みを帯び、果汁があふれるみずみずしさが魅力。えぐみや酸味が少なく、桃本来の濃厚な甘みが口いっぱいに広がります。

父が桃をもぎ、娘が受け取り、母が仕分ける。収穫最盛期は、朝早くから日が暮れるまで、収穫や選果、出荷作業に追われる毎日。
「この時期は、お父さんが少しピリピリするんですよ」
そう笑いながら話す家族の言葉からも、一つひとつの桃にどれだけ真剣に向き合っているかが伝わってきます。
「ファミリーファーム三森」という屋号には、家族だけでなく、その先のお客様とも桃を通じて家族のようなつながりを育みたいという想いが込められています。
満天の星のように桃が実る畑。その一玉一玉には、桃を愛し、人を思い、おいしさと笑顔を届けたいという三森さん一家のまっすぐな想いが詰まっていました。

